天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(11/21)

 第四の技法は、雅から俗への展開。これは、先に触れたように斎藤茂吉から始まっている。本歌取やパロディ化にも通じる。
  春の夜の午前三時に眼をあきてわれの体の和(なご)むことあり
                     斎藤茂吉『寒雲』
  春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状
                     塚本邦雄『波瀾』
  春の夜のすさびに来たるキッチンにわれ塩を舐む即興的に
                     小池光『草の庭』
いずれも初句で優雅に詠いだしておきながら、二句以下で俗な話題に転じて、驚きや笑いを誘う。雅と俗の落差の活用である。これらの本歌は、よく知られているように、
  春の夜の夢のうきはしとだえして嶺に別るるよこぐものそら
                     藤原定家
である。

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斎藤茂吉『寒雲』