第四の技法は、雅から俗への展開。これは、先に触れたように斎藤茂吉から始まっている。本歌取やパロディ化にも通じる。
春の夜の午前三時に眼をあきてわれの体の和(なご)むことあり
斎藤茂吉『寒雲』
春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状
塚本邦雄『波瀾』
春の夜のすさびに来たるキッチンにわれ塩を舐む即興的に
小池光『草の庭』
いずれも初句で優雅に詠いだしておきながら、二句以下で俗な話題に転じて、驚きや笑いを誘う。雅と俗の落差の活用である。これらの本歌は、よく知られているように、
春の夜の夢のうきはしとだえして嶺に別るるよこぐものそら
藤原定家
である。