天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(21/21)

 家猫への執着とその歌の数の多さも、小池光の一大特徴としてよい。猫の歌の割合は、『草の庭』2.5%、『静物』3.1%、『滴滴集』6.7%、『時のめぐりに』3.3% といった具合。一首だけあげておく。
  ざぶとんに眠る嚢(ふくろ)を猫ともいふ老荘とほく笑へるこゑす
                       『滴滴集』  
現代人の心を癒してくれるペットを入念に詠むことは、短歌の今後のテーマになりうる。
 小池光は、斎藤茂吉の言語感覚や塚本邦雄の前衛手法に学び、それらのエッセンスを拡張して、広範囲な分野の知識に適用した。かくして、現代の短歌革新ともいうべき「知の詩情」を確たるものにした。ここに歌人・小池光が果たした現代短歌における重要な役割を認めることができる。
 なお本シリーズは2010年10月号の「短歌人」に掲載された筆者の評論「温故知新」を拡大し、更に詳細に記述したもの。小池光短歌ワールドの2010年以降の展開は、歌集『山鳩集』、『思川の岸辺』及び今後の歌集の総合的な分析から明らかになるが、後日の課題・楽しみとしておきたい。 

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小池光『滴滴集』