和歌の鳥(2/9)
万葉集(4,516首、759年成立)、古今集(1,111首、912年成立)、新古今集(1,979首、1205年成立)と時代が新しくなるにつれ、全歌に占める鳥(固有名詞に限る)の歌の割合は、10%,8.6%,7% と漸減していく。百年、二百年と時間が経つうちに、都の都会化と和歌の詠み手の貴族化などが進行して、生活の野性味が薄れていったことに起因するのであろう。ちなみに江戸前期の芭蕉の俳句では、8.5%であった。
ここからは、特定の鳥についてみていきたい。
先ずキジ(雉、キギシ)について。これは日本の国鳥(1947年に選定)であり、現在でも里山近くの田畑で見かけることは珍しくない。ところが、万葉集には九首詠まれているが、古今集では一首、新古今集では無し、といった状況である。例をあげよう。
春の野にあさる雉(きぎし)の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ
万葉集・大伴家持
武蔵野のをぐきが雉立ち別れ去にし宵より背ろに逢はなふよ
万葉集・作者未詳
春の野のしけき草はのつまこひにとひたつきしのほろろとそなく
古今集・平貞文
一首目: 「春の野に餌をあさる雉は妻を恋いて鳴いては自分の居場所を人に知られてしまって…」。妻恋しさゆえに、猟師に自分の居場所を知られてしまう雄雉の身を案じての歌。
二首目: 「武蔵野の山の峰の雉が飛び立つように、別れて行った夜から、夫に逢うことがありません。」
三首目: 「春の野の生い茂った草の中で、あなたが恋しくて飛び立つ雉のように、私はホロロと泣く。」
いずれの歌にも雉に重ねて生の悲しみが詠まれている。雉の雄は猛々しい姿と啼き声をもっているのだが、そうした歌は無い。