天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

万葉と新古今・動物比べ

 万葉集に現れる動物を調べてみる。詞書、注などにも入っている動物も含めると946個所に現れる。全歌数4516首に対して21%である。動物の種類では、92種になる。
 新古今集に現れる動物を調べてみる。全歌数は1978首あるが、うち258首に現れる。詞書も含めて13%。動物の種類でみると、27種になる。新古今と比べて万葉に現れる動物のほうが、種類で3.4倍以上、頻度では2倍である。万葉の歌数は新古今の2.3倍なので、頻度は両者で等価とみてよい。種類については、万葉のほうが圧倒的に豊富である。
 万葉集が野性的・骨太であるのに対して、新古今集が優美・繊細である要因のひとつに、動物の種類の違いがあるであろう。歌語が究極にまで洗練された新古今の時代では、詠みこむ動物も自ずと暗黙裡に制約されたと思われる。万葉では、犬、牛、熊、虎、むささび、貝、田螺、鰻、蝿 などが出てくるが、新古今ではせいぜい、鷲、はし鷹、鳩、ささがに が珍しいものである。和歌が花鳥風月を詠むという規範に収まってゆく過程が見て取れる。万葉に比べて詠まれる頻度がぐんと減ったものに うま、鶯、鶴などがある。
 馬は、万葉では、あかごま、あをうま、あをこま、うま、こま、たつのま、はくば、はなちごま、りば などと多様な呼び名で90箇所ほどに出てくるが、新古今では、歌語の「駒」で4首詠まれているのみ。両書の最初の馬の歌を以下にあげておく。


  たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野
                     万葉集・間人老
  駒とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井手の玉川
                   新古今集藤原俊成

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赤駒(webから)