天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

一茶俳句と古典(3/3)

日本の古典を踏まえたと思われる句の例をいくつかあげておく。
     初蝶のいきほひ猛に見ゆる哉
   *竹取物語に「いきほひ猛の者になりにけり」がある。
     雉(きじ)なくや彼(かの)梅わかの泪(なみだ)雨
   *謡曲隅田川」を踏む。
     山鳥のほろほろ雨やとぶ小蝶
   *玉葉集の「山鳥のほろほろとなくこゑきけば父かとぞおもふ母かとぞおもふ」
    という行基の歌を踏む。
     山吹をさし出しがほの垣ね哉
   *太田道灌と山吹の少女の故事を踏まえる。
     おく霜や白きを見れば鼻の穴
   *新古今和歌集大伴家持歌「鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけ

    にける」のパロディ。
     庵の猫玉の盃そこなきぞ
   *徒然草第三段「万(よろづ)にいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざう    

    しく、玉の巵(さかづき)の当(そこ)なき心地ぞすべき。」による。
     なの花も猫の通(かよ)ひぢ吹(ふき)とぢよ
   *古今集巻一七の遍照歌「天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよをとめの姿しばしとどめ

    む」のパロディ。
     隙(ひま)あれや桜かざして喧嘩(けんか)買(かひ)
   *新古今集巻二の山部赤人歌「ももしきの大宮人は暇あれや桜さざしてけふも暮   

    しつ」のパロディ。

 

 ちなみに中国や日本の古典を踏まえて俳句を作る方法は、芭蕉、蕪村、一茶に共通しているので、それぞれの特徴は際立たない。一茶の特徴が現れるのは、副詞の用法である。一茶の用いた副詞の種類や数は、三人のうちで断トツである。
[参考]すでに本ブログ「副詞―個性の発現」
      https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/20171226
    でご紹介済み。

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