喩に沈む季節(4/8)
4.現代若手歌人に見る季語の扱い
以下の話は、『現代短歌最前線 上・下』の全4200首についての季語分析(付表)に
基づいて進める。このアンソロジーには、21人の現代歌人ひとりにつき自選200首が
掲載されている。言葉としての季語区分は、『合本俳句歳時記』第三版、角川書店に拠った。言葉としては季語に違いないが、文脈上からは、季語と見なせない場合が多々ある。
先ず、季語とみなかった季語を含む歌の例を次にあげる。こうした例は付表の季節の区分から外してある。
両膝をついて抱き合う真夜中のフリーザーには凍る食パン 穂村 弘
イネ科のページにはいつも風が吹き図鑑の中のチガヤ、コバンソウ 前田泰子
ブラジルへ 冬至生まれの妹が夏至に生まれた姉に手紙を 東 直子
歌、卵、ル、虹、凩、好きな字を拾ひ書きして世界が欠ける 荻原祐幸
ヨーゼフは千鳥足にて帰り来ぬ男(を)の子生まれて七日樹の闇 川野里子
一方、季節感を必要とせず、物・言葉・イメージ・比喩としての季語は、ひとまずは機械的に各季節に区分して数え、後で間接用法として内数で括りだした。例えば、
しろがねの和毛(にこげ)しづかにかがやける李(すもも)のごとき吾子の陰(ほと)見き
大辻隆弘
ことばなる那智のみ滝よあくがれて来つるこころを打ちたまへかし 水原紫苑
XXX梨XXXX雷鳴XXX$$$XXXよせ 荻原祐幸
春といふ仕事に飽きてよこたはるやたらさびしい微熱のからだ 林 和清
従って、残りが、季節感がでているか否かは問わない直接用法の季語を含む歌の数である。この表から、『現代短歌最前線 上・下』では、季語を目一杯取上げても4200首中1716首で約41%、直接使用の季語の歌は、1470首で約35%という結果になる。
対するに、『新古今和歌集』における季語の出現頻度を見てみると、全1979首中1210首、61%の高さである。
(注1) 各人200首、歌総数=4200首
(注2) 俳句歳時記の季語を季節の基準にとる。
(注3) 間接用法: 比喩、引用、過去の中の季語
(注4) 直接用法: 小計から間接用法の数を差引く