天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

喩に沈む季節(7/8)

6.読みの問題も
 季語を意識して鑑賞することで、イメージが顕つことがある。読み手の季語に対する感受性にも大きく依存する。藤原定家の次の有名な例がある。
  見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ

                     藤原定家(秋歌)
一、二句で花や紅葉のイメージを読む側に一瞬くきやかに渡し、三句目の否定で寂しい秋の情景が更に鮮明になった。
 次に揚げる現代短歌は、いずれも季語を比喩表現に使っているが、季語が引き起こす季節感を意識して読むと迫真力ある作品になる。
  樋口一葉またの名を夏 まつすぐに草矢飛ぶごと金借りにゆく

                         川野里子
  サボテンに苦情を言つてゐるやうに白球を投げてゐる野茂英雄

                         荻原祐幸
  かなしみのかたつむり一つ胸にゐて眠りても雨めざめても雨

                        小島ゆかり
  夜半の道君ひとりする物思い知らざれば照るわれは若月(みかづき)

                        梅内美華子
はじめの三首は、夏の季節。草矢、サボテン、かたつむりが季語。若月(みかづき)の歌は秋。これは万葉集の歌、
  振りさけて若月(みかづき)見れば一目見し人の眉引思ほゆるかも                    

                         大伴家持
を想起すれば、更に感興が増す。

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サボテン