天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食う・飲むを詠む(1/6)

 「食(く)う」には、食(た)べる、食(は)む などの変形がある。「はむ」は歯の動作の動詞形。他方、「飲む」は「のど(喉、飲門)」の同根語。

  青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし
                    万葉集・笠沙弥
  馬酔木なす栄えし君が掘りし井の石井(いはゐ)の水は飲めど飽かぬかも
                   万葉集・作者未詳
  毎年(としのは)に春の来らば斯くしこそ梅を挿頭(かざ)して楽しく飲まめ
                  万葉集・野氏宿奈麿
  酒圷(さかづき)に梅の花浮け思ふどち飲みての後は散りぬともよし
                   万葉集坂上郎女
  居(お)り明(あか)しも今宵は飲まむ霍公鳥明けむ朝は鳴き渡らむそ
                   万葉集大伴家持
  わが妻はいたく恋ひらし飲む水に影(かご)さへ見えて世に忘られず
                  万葉集・若倭部身麿

 笠沙弥は、俗名を笠朝臣麻呂といった。行政官として業績をあげたが、後に出家。大宰帥大伴旅人らと交わり,人間味豊かな作品を詠んだ(万葉集に短歌7首)。
 二首目: 「馬酔木なす」は「栄える」を導く枕詞。「石井」は、筒の部分が石でできた井戸。
歌の意味は、「栄えたあなた様が掘られた石井の水は、いくら飲んでも飽きないものですね。」
 坂上郎女の歌: 「酒杯に梅の花を浮かべ、友達同士で飲んだ後は、梅の花が散ってしまってもいい。」とは。こんな女性と飲みたくなる内容である。
 大伴家持の歌: 「徹夜で今夜は飲みましょう。徹夜で飲んだその翌日には霍公鳥(ほととぎす)が鳴くことでしょう」とは、なんとも豪快というか、風流な内容である。
 若倭部身麿の歌: 題詞には、「天平勝宝7年2月6日、交替で筑紫に遣わされる諸國の防人らの歌」とある。「私の妻は、とても私のことを恋しがっているようです。飲む水に妻の影さえ映って、忘れられないのです。」防人の役目についている兵士の気持が、巧みに詠まれていてせつない。

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霍公鳥(ほととぎす)