天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

天地(あめつち)は動くか (4/7)

 一方、東日本大震災では、地震によって引き起こされた津波と東電の福島原発事故が、前二震災と比べて特異な事象であった。津波に関して「震災の歌~鎮魂と希望と」(NHK総合テレビ)から例を二首あげる。
  火の海を燃えつつ沖へ流れゆく漁船数隻阿修羅となりて
                   気仙沼市内海和子
  死に顔を「気持ち悪い」と思ったよごめんじいちゃんひどい孫だね
                  気仙沼高校・畠山海香
 次に原発事故について三例を示す。初めの二首は「震災の歌~鎮魂と希望と」(NHK総合テレビ)から。
  公園に遊ぶ幼の声絶えて乾ける風に花散るばかり
                   いわき市・水竹圭一
  窓開けて涼風病妻(つま)に送りたしされど叶わぬ原発の夏
                    狭山市・若松吉弘
  ああ犬は賢くあらず放射線防護服着る人に尾をふる

             小島ゆかり「歌壇」2012年1月号
 なお、原子力被害については、終戦間際の長崎原爆の惨状をリアリズムで鬼気迫る歌に詠んだ竹山広が史上初といってよい(歌集『とこしへの川』)。
 東日本大震災の短歌で表記の特徴が現れた例を次にあげる。「短歌」2011年6月号から岡野弘彦の作品を三首。
  身にせまる津波つぶさに告ぐる声 乱れざるまま をとめかへらず
  この親に過ぎたる娘(こ)よとなげく父、水漬く屍は 月経てかへる
  映像は夜半(よは)もかなしく流れゐつ。涙を耐へて 眠りなむとす
 岡野弘彦は、釈迢空の短歌表記法(句読点、空白を使う)を受け継いだ弟子である。これら三首について詠み方の特徴をあげれば、上句を一気に詠んで緊張感切迫感を出し、下句を四句と五句にはっきり分けて情感・余情を感じさせるように工夫している。

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「短歌」2011年6月号(角川書店