俳句は取合せ (4/10)
芭蕉の「さみだれ」13句(続)
五月雨の降残(ふりのこ)してや光堂(ひかりだう)
季語=五月雨、取合せ語=光堂、連結語(とりはやし)=降残して
名紀行文「おくのほそ道」平泉の条に出てくる。この句の前に次の文章がある。
「かねて耳驚かしたる二堂開帳す。経堂は三将の像を残し、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。七宝散りうせて、珠の扉風に破れ、金の柱霜雪に朽ちて、既に頽廃空虚のくさむらとなるべきを、四面新たに囲みて、甍を覆ひて風雨をしのぐ。しばらく千歳の記念とはなれり。」
この文章によって読者は、俳句の意味(光堂が昔の華麗さを留めている)を了解する。
さみだれをあつめて早し最上川
季語=さみだれ、取合せ語=最上川、連結語(とりはやし)=あつめて早し
この句は「おくのほそ道」最上川の条に出てくる。句の前にある文を次に引用する。
「最上川は、みちのくより出でて、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所あり。板敷山の北を流て、果ては酒田の海に入る。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。白糸の瀧は青葉の隙々に落ちて、仙人堂、岸に臨て立つ。水みなぎつて舟あやうし。」
五月雨や色帋(しきし)へぎたる壁の跡
季語=五月雨、取合せ語=壁の跡、連結語(とりはやし)=色帋(しきし)へぎたる
この句は、落柿舎滞在での交遊と独居を描写した「嵯峨日記」にでてくるもの。壁に色紙のはがし跡が残る部屋の傷みようで、外には五月雨が降りやまない。
さみだれや蚕(かひこ)煩(わづら)ふ桑の畑
季語=さみだれ、取合せ語=桑の畑、連結語(とりはやし)=蚕(かひこ)煩(わづら)ふ
さみだれの降り続ける桑の畑に、病んで捨てられた養蚕の蚕がうごめいている様子を詠んでいる。
さみだれの空吹(ふき)おとせ大井川
季語=さみだれ、取合せ語=大井川、連結語(とりはやし)=空吹(ふき)おとせ
川止めになった大井川に対して、五月雨の空を吹き落としてくれ、と頼んでいる構成。