天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句は取合せ(5/10)

蕪村の「さみだれ」28句   藤田真一・清登典子編『蕪村全句集』(おうふう)による。
 ほぼ年代順にあげてみる。
  五月雨や美豆(みづ)の寝覚の小家がち   
季語=五月雨、取合せ語=美豆の寝覚、連結語(とりはやし)=寝覚の小家がち
美豆は洛南淀の地名で、宇治川と木津川の合流点。歌枕の水郷地。五月雨が降り続くと、増水でおちおち寝ておれない小家住いが散在する、という句意。
  さみだれのうつほばしらや老(おい)が耳
季語=さみだれ、取合せ語=老が耳、連結語(とりはやし)=うつほばしら
うつほばしらとは、真中が空洞の柱で、御所の清涼殿にあり、雨水を通すために空洞にしてある。老人の耳は、うつほ柱が雨水によりたてる不快な音のような耳鳴りがする、という句意。
  五月雨の更行(ふけゆく)うつほ柱かな
季語=五月雨、取合せ語=うつほ柱、連結語(とりはやし)=更行
前の句の別案としてつくられた句。夜中に宮中のうつほ柱が五月雨により鳴っているという。不快感は出ていない。
  さみだれや名もなき川のおそろしき
季語=さみだれ、取合せ語=名もなき川、連結語(とりはやし)=おそろしき
名のある大河でなくとも、五月雨で増水した名もなき川も恐ろしい。至極もっとも。
  五月雨や芋這(はひ)かかる大工小屋
季語=五月雨、取合せ語=大工小屋、連結語(とりはやし)=芋這かかる
降り続く五月雨のせいで大工仕事は休業。その間に閉め切った大工小屋に芋の蔓が伸びて這かかっている。連結語が大工仕事のできない状況を暗示している。
  湖へ富士をもどすや五月雨(さつきあめ)
季語=五月雨、取合せ語=湖、連結語(とりはやし)=富士をもどす
「五月雨の勢いが富士山を琵琶湖に押し戻してしまったのか、山が見えない」ということらしいが、これは一夜にして地が裂け琵琶湖をつくり、逆に富士山が湧きだしたという伝説にもとづくらしい。現代では話題にもならないので、解釈鑑賞は困難。
  床(ゆか)低き旅のやどりや五月雨(さつきあめ)
季語=五月雨、取合せ語=旅のやどり、連結語(とりはやし)=床低き
句意は明解。五月雨が降り続く旅で止まった宿の床が低いと不安になるのである。
  さみだれや田毎の闇となりにけり
季語=さみだれ、取合せ語=田毎、連結語(とりはやし)=闇となりにけり
田毎の月は、信濃国姨捨山の棚田一枚一枚に映る月を称賛した言葉だが、この句では月を闇に差し替えた。思わず納得してしまうが、ダジャレだろう。「や、けり」と二重の切れ字を用いている点、作為があるように思える。
  うきくさも沈むばかりよ五月雨
季語=五月雨、取合せ語=うきくさ、連結語(とりはやし)=沈むばかりよ
五月雨による凄まじい増水ぶりを表現している。
  ちか道や水ふみ渡る皐(さつき)雨
季語=皐雨、取合せ語=ちか道、連結語(とりはやし)=水ふみ渡る
近道をしたのだが、五月雨で道に水が溜まっていて、そこを踏んで歩くはめになった、という句意。

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うきくさ (webから)