天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句は取合せ(7/10)

蕪村の「さみだれ」28句(続続)
  閼伽棚(あかだな)に何の花ぞもさつきあめ
季語=さつきあめ、取合せ語=何の花、連結語(とりはやし)=閼伽棚に
閼伽棚は、仏前に供える花や水などを置く棚。句は、古今集の旋頭歌「うちわたす遠方人にもの申す我そのそこに白く咲けるは何の花ぞも」を踏んでいる。五月雨にも拘わらず、何の花かはわからいが、閼伽棚に置いてあることに心惹かれた。
  あか汲(くみ)て小舟あはれむ五月雨
季語=五月雨、取合せ語=小舟、連結語(とりはやし)=あか汲てあはれむ
舟底にたまった水を掻い出す船頭の仕草が、小舟を大切にしている様子に見えたのだ。
  さみだれの大井越(こし)たるかしこさよ
季語=さみだれ、取合せ語=かしこさ、連結語(とりはやし)=大井越たる
五月雨で川止めになる前に大井川を越えられたことを自慢している様子。
  五月雨の堀たのもしき砦(とりで)かな
季語=五月雨、取合せ語=砦、連結語(とりはやし)=堀たのもしき
五月雨のおかげで堀に水がいっぱい溜り、砦としてたのもしくなった、という句意。
  昆布で葺(ふく)軒の雫(しづく)や五月雨
季語=五月雨、取合せ語=軒の雫、連結語(とりはやし)=昆布で葺
この句は、円山応挙の「蝦夷の図」につけた画賛句である。「蝦夷では、屋根を葺く昆布から垂れる雫が五月雨に見えるだろう。」という。
  さみだれや仏の花を捨(すて)に出る
季語=さみだれ、取合せ語=仏の花、連結語(とりはやし)=捨に出る
句意は明解。仏に供えていた花が枯れたので五月雨の中を捨てに出た、という。
  さみだれや大河を前に家二軒    
季語=さみだれ、取合せ語=家二軒、連結語(とりはやし)=大河を前に
「大河を前に」という連結語(とりはやし)の効果が絶妙。また「家二軒」の数字二が効いている。
  帋燭(しそく)して廊下過(すぐ)るやさつき雨
季語=さつき雨、取合せ語=帋燭、連結語(とりはやし)=廊下過る
帋燭は、こよりに油を浸して灯火としたもの。さつき雨のために邸内が更に暗くなっているのだ。情景が鮮やかに見えるようだ。
  さみだれのかくて暮(くれ)行(ゆく)月日哉
季語=さみだれ、取合せ語=月日、連結語(とりはやし)=かくて暮行
五月雨が降り続くと、何しようもない無為の日々になるので、誰しもこうした感懐を抱く。連結語(とりはやし)の措辞の効果である。 

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仏花