天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句は取合せ(8/10)

結社誌「古志」2019年1月号の作品から
  うとうとと夢の中味も土用干   大谷弘至
季語=土用干、取合せ語=夢の中味、連結語(とりはやし)=うとうとと
土用干は虫干ともいう。その時期に夢の中味も土用干する、という発想が新鮮。ただ、連結語(とりはやし)の「うとうとと」は、平凡だろう。
  一服の茶や蝙蝠を借景に     大谷弘至
季語=蝙蝠、取合せ語=一服の茶、連結語(とりはやし)=借景に
この句の季語としての蝙蝠は、動物を差している。それが借景になっている、となると古民家の軒先を見ながら、座敷で或いは縁側で一服の茶を頂いている情景を想像する。
  水中花李白の盃はいまいづこ   大谷弘至
季語=水中花、取合せ語=李白の盃、連結語(とりはやし)=いまいづこ
水中花は、水を入れたコップなどに入れて造花や作り物の魚、鳥などを開かせるもの。 江戸時代に中国から伝来したらしい。延宝年間に酒席での遊びとして酒の杯に浮かべることが流行したため、「酒中花」「杯中花」の呼び名もある。酒を好んだ李白には、「月下独酌」という有名な五言古詩があり、それは宮廷を追われる直前の44歳の春に作られたとされる。宮廷の俗物官人たちの酒席から抜け出して一人月下に盃を傾ける。俳句は、この時の盃は今はどうなっているのだろう、と詠んでいる。作者が酒中花の盃を手にしているのだ。そしてふと李白漢詩「月下独酌」を想った、と解釈する。
  新年へ這ひ出してこい赤ん坊   長谷川櫂
季語=新年、取合せ語=赤ん坊、連結語(とりはやし)=這ひ出してこい
初句と二句の表現に驚く。まるで別世界から(隣の寝室からでもよいが)この世の新年に這い出してくるようで、元気を感じまことにめでたい。
  落雁の箱を開けば花野かな    長谷川櫂
季語=花野、取合せ語=落雁、連結語(とりはやし)=箱を開けば
落雁は、澱粉質の粉に水飴や砂糖を混ぜて着色し、型に押して乾燥させた干菓子のこと。名は近江八景の「堅田落雁」にちなんでつけられたという説がある。この句では、頂き物の落雁であり、その箱を開けたとき、目に飛び込んできた色鮮やかな菓子の様子を詠んだもの。落雁をくれた人への御礼の気持が表現されている。
  喝食の唇あかあかと枯野かな   長谷川櫂
季語=枯野、取合せ語=喝食の唇、連結語(とりはやし)=あかあかと
喝食とは、禅林で食事時に修行僧へ食事などを知らせることをいう。また、その役目をした有髪の少年(のちには稚児)をさす。この句は、作者が冬の枯野が見える禅寺で食事を頂いたとき、食事の世話をしてくれた稚児の赤い唇に気付いたことを詠んだものと思われる。新鮮な取り合せになっている。
  引力を真横に断つや鬼やんま   加田 怜
季語=鬼やんま、取合せ語=引力、連結語(とりはやし)=真横に断つ
トンボが空を水平に飛ぶということは、地上からの引力に打ち勝っているからで、それを初句二句のように表現した。連結語(とりはやし)が新鮮に感じられる。
  爽やかやホモサピエンス歩を進め 外澤桐幹
季語=爽やか、取合せ語=ホモサピエンス、連結語(とりはやし)=歩を進め
随分と抽象的な内容だが、ホモサピエンスという言葉により、現生人類が春の陸地を歩んでゆく壮大な歴史の情景を想像することになる。
  猫と尼りの字で眠る秋深し   岩崎ひとみ
季語=秋深し、取合せ語=猫と尼、連結語(とりはやし)=りの字で眠る
実景であろう。連結語(とりはやし)の表現が具体的で新鮮。

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落雁 (webから)