平安・鎌倉期の僧侶歌人(9/17)
行尊 (天喜三~長承四(1055-1135))
平安時代後期の天台宗の僧侶(平等院大僧正)・歌人。三条院の曾孫。大峰・葛城・熊野など各地の霊場で修行。白河院・鳥羽院の熊野臨幸に供奉。また画もよくし、衣冠を着けて歌を詠んでいる柿本人麻呂像を夢にみて写したという画があり、人麻呂像の最初のものとされる。
[生活感]
もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし 金葉和歌集
心こそ世をば捨てしかまぼろしの姿も人に忘られにけり 金葉集
*熊野で修行中の行尊を、知りあいであった藤原祐家が見分けられなかった
場面で詠んだ。
春くれば袖の氷もとけにけりもりくる月のやどるばかりに 新古今集
木の間もるかたわれ月のほのかにも誰か我が身をおもひいづべき 金葉集
寝ぬほどに夜や明けがたになりぬらんかけひの水の音まさるなり 新後拾遺集
すみなれし我が古郷はこの頃や浅茅がはらに鶉なくらむ 新古今集
[旅の感懐]
かへりこむほどをばいつと言ひおかじ定めなき身は人だのめなり 千載集
いづくともさしてもゆかず高瀬舟うき世の中を出でしばかりぞ 玉葉集
あはれとてはぐくみたてし古へは世をそむけとも思はざりけん 新古今集
*若年の修行時代に、熊野から大峰に入る際に、育ててくれた乳母に贈った歌。
[人生観]
数ならぬ身をなにゆゑに恨みけんとてもかくてもすぐしける世を 新古今集
この世には又もあふまじ梅の花ちりぢりならんことぞかなしき 詞花集
*この歌を詠んでほどなくして行尊は亡くなった。