平安・鎌倉期の僧侶歌人(16/17)
参考
秋の野になまめきたてるをみなへしあなかしがまし花もひと時 古今集・遍昭
*若い女たちがあたり憚らずお喋りなどしている様を暗喩する。
たらちめはかかれとてしもむばたまの我が黒髪をなでずやありけむ 後撰集・遍昭
*むばたまの:「黒」にかかる枕詞。
山守は言はば言はなむ高砂のをのへの桜折りてかざさむ 後撰集・素性
*高砂の 「をのへ」の枕詞。
ささがにの空に巣かくもおなじことまたき宿にもいく世かはへむ 新古今集・遍昭
*自然から人事へ思いを馳せる作法。
花ちらす風のやどりはたれかしる我にをしへよ行きてうらみむ 古今集・素性
*風を擬人化。
思ふともかれなむ人をいかがせむあかず散りぬる花とこそ見め 古今集・素性
*「離(か)れ」「枯れ」の掛詞によって、自然と人事を共鳴させる。
いかりおろす舟の綱手は細くともいのちのかぎり絶えじとぞ思ふ
続後拾遺集・素性
*上三句は「絶えじ」を導く序詞。
浅茅原玉まく葛(くず)のうら風のうらがなしかる秋は来にけり 後拾遺集・恵慶
*うら風: 葛の葉を裏返して吹く風。「うら風の」までが「うらがなしかる」
を導く序(有心の序)。
木のもとぞつひの住みかと聞きしかど生きてはよもと思ひしものを 行尊大僧正集
*「よも」は万一にもそんなことはあるまいという予測をあらわす副詞。
今ぞ知る一(ひと)むらさめの夕立は月ゆゑ雲のちりあらひけり 林葉集・俊恵
*「雲のちり」は雲を塵に見立てた表現で、「涙の雨」「花の白雪」などと同類。
夏ふかみ野原を行けば程もなく先立つ人の草がくれぬる 林葉集・俊恵
*後世いわゆる「ただこと歌」の先蹤と言えよう。
あくがるる心はさてもやま桜ちりなむのちや身にかへるべき 新後撰集・西行
*やま桜:「やまず」を掛ける。
いかで我この世のほかの思ひいでに風をいとはで花をながめむ 山家集・西行
*本歌取り。 あらざらむこの世のほかの思ひいでに今ひとたびの逢ふこともがな
和泉式部「後拾遺集」