水のうた(1/17)
「水」の語源は、「みつ(満)」という説あり。確かに自然界には水が満ちている。
秋山の樹(こ)の下隠(かく)り逝(ゆ)く水のわれこそ益(ま)さめ御思(みおもひ)よりは
万葉集・鏡王女
*天智天皇が鏡王女のいる家が見えたらなあと嘆いた歌に対する返歌で、意味は
「秋山の木の葉の下を隠れて流れる水のように姿は見えなくても私は貴方が私を
想ってくださるよりもはるかに増して思い焦がれています。」
明日香川しがらみ渡し塞(せ)かませば流るる水ものどにかあらまし
万葉集・柿本人麿
*明日香川は、高市郡高取山を源流として、稲淵山(いなぶちやま)の西を通り、
甘樫の丘、藤原宮の側を通って、大和川に流れている。歌の意味は「明日香川に
堰を作って止めたら、流れる水も緩やかになるだろうに。」
わが背子は物な思ほし事しあらば火にも水にもわれ無けなくに
万葉集・安倍女郎
*なんとも迫力ある愛に満ちた歌である。「私の愛しい人は物思いなどなさいますな。
いざ事があれば火にも水にも私は入りますから。」と詠んでいる。
水の上に数書く如きわが命妹に逢はむと祈誓(うけ)ひつるかも
万葉集・柿本人麿歌集
*意味は「水の上に筆で数を書くような空しい私の命 貴女に逢おうと神に誓った
ことだ。」
巻向の山辺とよみて行く水の水沫(みなわ)のごとし世の人われは
万葉集・柿本人麿歌集
鈴が音(ね)の早馬(はゆま)駅家(うまや)の堤(つつみ)井(ゐ)の水をたまへな
妹が直手(ただて)よ 万葉集・東歌
無耳(みみなし)の池し恨めし吾妹子が来つつ潜(かづ)かば水は涸(か)れなむ
万葉集・作者未詳
*大和三山の一つ耳無山周辺の伝承歌。三人の男が居て同時に一人の少女に
求婚したが、少女は応じることは無理として、無耳の池に身投げして死んだ。
歌は、その時「水は涸れて欲しかった」と池を恨む内容である。