天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

水のうた(10/17)

  洪水だあ、とはしゃいでたのは私です むろんヨーグルトに
  なっちまいましたが            加藤治郎
*このような作品を読者はどのように解釈するだろうか。それで
 どう評価するだろうか。上句は牛乳の入った瓶をひっくり返して
 はしゃいでいる情景。下句は時間が経って牛乳が固まり始めた
 情景、と想像できるが、ちょっと無理だろう。
  水面を風わたるときもとどまりてこの世に馬もわれも夕映え
                       井辻朱美
*この世にとどまって馬もわれも夕映えている、とは詩的な表現
 だが、自己陶酔で甘すぎないか。
  水の舌しきり草根を洗ふとぞ慰撫のごとくに溢水(いつすい)前夜
                       安永蕗子
*溢水とは、水があふれ出ること。水をあふれさせること。
 その前夜に草根を慰撫するように水が洗う、と詠う。「水の舌
 しきり」という擬人法が生々しい。
  逃げ水が逃げなくなってゆわゆわと近づくごとしたとえば老いは
                       松平盟子
  いづくより射しくるものか川幅の蛇行につきて水あかりせる
                       森比佐志
  石投げて川のおもてを耐へしかば寄り添ふやうに水の輪が閉づ
                      池田はるみ
  簗の簀へ狭められつつ水の面が馬の背のごと盛り上がりくる
                       岡崎康行

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逃げ水