天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

月の満ち欠け(1/4)

 月の詩情については、短歌と俳句の両面で昨年すでにまとめている(8月30日~9月10日)。このシリーズでは、月の満ち欠けに付けられた日本独特の美しい名称を詠んだ短歌作品を見てみたい。
 月は約30日で地球を一周する。その間に新月、上弦、満月、下弦 の順に満ち欠けする。満月(望月)、三日月、弓張月、十六夜月、立待月、居待月、寝待月(臥待月)、二十日月、片われ月、弦月 など。まことに豊かな日本語である。順不同で説明していこう。
[参考]月の名称と状態については、webの「お月様の満ち欠けと呼び名」
    koyomi8.com/reki_doc/doc_0203.htm が分かりやすい。

満月:  英語の呼び名(full moon)が元。わが国では望月、十五夜とも。
二日月: 繊月とも。日没後1時間前後の空に現れる繊維の様に細い月。
三日月: 初月(ういづき)・若月(わかづき)・眉月(まゆづき)など多数
     の異称あり。
寝待月: 臥待月とも。横になって待たないとならないくらい遅く出る月。
弓張月: 弓を張った形の月。弦月(上弦、または下弦の月)。

  世間(よのなか)は空しきものとあらむとぞこの照る月は満ち欠けしける
                     万葉集・作者未詳
  振(ふり)さけて若月(みかづき)見れば一目見し人の眉引(まよびき)思ほゆるかも
                     万葉集大伴家持
  十五日(もちのひ)に出でにし月の高高に君をいませて何をか思はむ
                     万葉集・作者未詳
*意味は、「十五日に出てきた月のように、いまかいまかとお待ちしたあなた様を
 お迎えし、なにも思い煩うことなどございません。」

  難波潟潮みちくれば山の端に出づる月さへみちにけるかな
                  古今和歌六帖・紀 貫之
  わがつまをまつといもねぬ夏の夜の寝待ちの月もややかたぶきぬ
                         恵 慶
*恵慶(生没年不明)は平安中期の僧、歌人


  照る月を弓張としもいふことは山辺をさしていればなりけり
                     大鏡凡河内躬恒
醍醐天皇の御代に、躬恒をお呼び寄せになって、月が非常に美しい夜に、「月を
 弓張というのはどういう意味だ。その理由を述べてみよ」とのご命令に応えた歌
 という。意味は、「夜空に照る月を、弓張とも言うことは、山辺を目指して入る
 (山のあたりをめがけて射る)からなのであるよ。」

  三日月のまた有明になりぬるやうきよにめぐる例(ためし)なるらむ
                     詞花集・藤原教長

 

f:id:amanokakeru:20190614000813j:plain

寝待月