感情を詠むー「うれし」(2/2)
武蔵野のほりかねの井もあるものを嬉しくも水の近づきにけり
千載集・藤原俊成
*武蔵野のほりかねの井: 関東地方では台地を漏斗状に掘りこんで,その底部
に井戸のある巨大なものがあり,《枕草子》に〈ほりかねの井〉として伝えられる
ものもあった。
おもひいづるをりたく柴の夕煙むせぶもうれし忘れがたみに
新古今集・後鳥羽院
*「亡き人を思い出すその折に焚く柴の夕べの煙にむせてむせび泣くのも嬉しい
ことである。それも忘れ形見だと思えば。」 新井白石の随筆『折たく柴の記』
の名称はこの後鳥羽院の歌からきている。
もろ人のうづもれし名をうれしとや苔の下にも今日はみるらむ
新勅撰集・慈円
吹く風も治まれる代のうれしきは花みる時ぞまづ覚えける
続古今集・後鳥羽院
秋の夜をふと眼さむれば明らかに洋灯(ランプ)の点(つ)いて居るが嬉しき
佐佐木信綱
年齢一つうへなる君といふ事の何かわれには嬉しかりしか
岡 麓