祈り、願い(1/4)
4回にわたって、祈りと願いの歌を見ていく。
祈る: 神仏に請い願う。「い(斎)」(神聖)と「のる(宣)」(「のり(法、
告)と同根で、みだりに口にすべきでない言葉を口に出す意」から成る。
願う: 祈る、望む、頼む。「ね(祈・請)― ねぐ ー ねがふ」と発展。
天地(あめつち)のいづれの神を祈らばか愛(うつく)し母にまた言(こと)問(と)はむ
万葉集・大伴部麻与佐
*防人の歌で、意味は、「天の神、地の神、どの神に祈ったら、いとしい母に
また話しができるのでしょうか。」
霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍(すめらみくさ)にわれは来(き)にしを
万葉集・大舎人部千文
*「霰降り」は鹿島の枕詞。これも防人の歌で、「鹿島の神様に武運長久を
祈って、私は防人にやって来たのだ。」
そのかみや祈り置きけむ春日野の同じ道にも尋ね行くかな
大鏡・藤原道長
うかりける人を初瀬の山おろし烈しかれとは祈らぬものを
千載集・源 俊頼
*百人一首でも知られている。「わたしにつれなかった人を私の方になびかして
くれよと初瀬観音様に祈ったのだが、一層激しく吹き降ろす山颪になって私に
つらくあたるばかりではないか。」
民のため時ある雨を祈るとも知らでや田子の早苗とるらむ
新千載集・後醍醐天皇
幕いでて遊牧民(ベトウイン)いのれそのこえの砂にしずめばきこゆることなき
香川 進
*二句は「祈れども」の短縮形。
しづまりて祈の声のやみしとき帰依なきわれが会堂にをり
遠山光栄
*下句から読者は、作者のおかれた状況をどのように想像するであろうか。