祈り、願い(4/4)
廻廊の静寂のなか秘めやかに肩触れ合はす「祈り」の絵の前
岡本 勝
祈るとき人は必ず目を閉じて何もなかったように立ち去る
俵 万智
*「祈るとき」と「立ち去る」が近すぎて、動作が落ち着かない。
神仏を恃むにあらずしかれどもときに頭(かうべ)を垂れて祈りぬ
三本松幸紀
つきつめてなに願ふ朝ぞ昨夜(きぞ)の雨に濡れてつめたき靴はきゐたり
上田三四二
転職のねがひをもちて働くといふさへ妻のはかながりゐつ
上田三四二
*上田三四二は、内科医であったが、自身癌にかかり長く闘病生活をおくった。
命をみつめる澄んだ境地の作品が多い。
唯一なるねがひにみ骨わかち埋む信濃の村の親のおくつき
窪田章一郎
*分骨は故人の唯一なるねがひであったのだろう。信濃の村ともう一方の場所は
どこか不明。
ひたごころひたぶるに願ぐわが恃(たの)む医師(くすし)の君のまさきくとこそ
明石海人
*明石海人は、26歳の時にハンセン病にかかり、岡山県の長島愛生園で療養生活
をおくった末、39歳で死去した。この歌は、頼りにしている担当医の幸せを
心から願うという悲しい内容。
聡(さと)くして弱からざれと子のための願ひごと書きわが星祭
大野誠夫