感情を詠むー「泣く」(2/5)
太刀なでて、わが泣くさまを、おもしろと、歌ひし少女(をとめ)、いづち
ゆきけむ 与謝野鉄幹
*初句二句は、いわゆる虎剣流と呼ばれた国家主義的な悲憤慷慨調である。
かなしみて飲めばこの酒いちはやくわれを酔はしむ泣くべかりけり
若山牧水
真日なかに家焼け落つる前に立ち哭く人もなし戦終る
鹿児島寿蔵
*敗戦の情景を簡潔にみごとに表現している。
悲しみを耐へたへてきて某夜(あるよ)せしわが号泣は妻が見しのみ
宮 柊二
*これも敗戦の悲しみであったろう。
むせび泣く子の髪撫でをり亡(う)せし子はこの年頃にもかく泣かざりき
五島美代子
泣き笑ひする日多くてまだ生きの希みは捨てず老を待つべし
五島美代子
なんとなく泣きたいような気持にて揚げ玉を袋につめてもらいぬ
山崎方代
*「揚げ玉」とは、「天かす」とも言う。つまり、天ぷらを揚げる時に生じる
揚げかす(天ぷらのカス)のこと。まともな天婦羅を買うお金がなく、揚げ玉
をもらって帰ったのだ。まさに「泣きたいような気持」であったろう。
山崎方代には、このような内容の作品が多い。