感情を詠むー「泣く」(3/5)
泣き喚(さけ)ぶ手紙を読みてのぼり来し屋上は闇さなきだに闇
岡井 隆
いた哭かば人知りぬべし秋の野におきて去(い)にたる白き大鳥(おほとり)
山中智恵子
惜しまるるこれの命といふべくは老いすぎにけり 人泣かぬなり
斎藤 史
*ある年齢を過ぎると死んでも惜しまれることはない。むしろ大往生と称賛される。
泣き虫にして笑ひ虫なるひとり子を常二人して叱りゐるなり
井上正一
*二人して、とは夫婦で、ということだろう。この子は、笑い過ぎても
叱られたようだ。
そのままを告げよとならば声あげてきゆんと泣きたき思ひと言はむ
大西民子
*そのまま=声あげてきゆんと泣きたき思ひ
脂(あぶら)滲む毛布に潜(もぐ)って寝る癖を看守咎(とが)めりいつ泣かむもの
小嵐九八郎
*小嵐九八郎は、早稲田大学在学中から新左翼運動に身を投じ、社青同解放派で
活動し、通算5年の服役経験を持つ。
泣くなラガーよ胸ひとつ幅隔てつつ明日立つ前に敗戦満つる
佐佐木幸綱
*ラガーとは、ラグビーの選手のこと。下句が分かりにくい。全体に直観しにくい。