感情を詠むー「泣く」(5/5)
髪梳きて眠りし妻のかたはらに声を殺して泣くことのあり
喜多昭夫
朝さめてすこし泣きたり 純卵(じゅんらん)のやうな日輪空に泛くゆゑ
日高尭子
*泣く原因がちょっと理解できない。経験がない。
あかときに歔欷(きょき)するこえをききしかど覚めていわねば吾(あ)は問わずけり
田井安曇
*連れ合いは、夢を見て泣いていたのではないか? 覚めたら忘れてしまった
のだろう。
北上の柳のせゐにするとてもあんなに泣いた男はゐない
今野寿美
*石川啄木の「やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」を
踏んでいる。
泣きながらあなたを洗うゆめをみた触覚のない蝶に追われて
東 直子
*悲しい歌だが、下句が共感しにくい。夢のなかのことだからしようがないか。
悲しみを演出する情景表現になっていることは確か。
ああそうかわたしは泣きたかったのだ 布団ふわりと子にかけやりつ
鶴田伊津
無解決の慟哭をもて劇終る つねいたましき者の側にて
前田 透