天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「恨み」(3/6)

  こひしさの忘られぬべきものならば何にか生ける身をも恨みむ
                   後拾遺集藤原元真
*「恋しさを忘れてしまうことができるものならば、生きている我が身を
  どうして恨むことなどあるだろう。恋しくて辛いからこそ、生きている
  ことを恨むのだ。」

 

  過ぎてゆく月をも何にうらむべき待つ我が身こそ哀れなりけれ
                  後拾遺集・読人しらず
  我が為につらき人をばおきながら何のつみなき世をや恨みむ
                      詞花集・浄蔵
*浄蔵は、平安中期の天台宗の僧。幼くして仏門に帰し、熊野,金峯山などの
 霊山を遍歴して苦行を摘んだ。楫の銘酒として国家的気筒から貴人の病気
 治療までかなりの験徳を初揮したという。

 

  秋ふかみすそ野の真葛かれがれにうらむる風の音のみぞする
                   金槐和歌集源実朝
  心だにわが思ふにはかなはぬに人をうらみむことわりぞなき
                    風雅集・藤原為子
*藤原為子(ためこ)は、鎌倉時代後期の女房歌人。清新で客観的な作風の和歌を多く
 残した。掲載の歌は、「心の中でさえ思うことがかなわないのに、その人を
 恨む理由などありません。」という。

 

  うらむべき心ばかりはあるものをなきになしても訪はぬ君かな
                    千載集・和泉式部
*「恨めしい心ばかりがあるのですが、それを無いものとしたからといって、
  あなたが訪れることはないのでしょう。」

 

  何せむに空だのめとてうらみけむ思ひたえたるくれもありけり
                  千載集・上西門院兵衛
*上西門院兵衛は、平安時代後期の女流歌人で、藤原実家、,藤原惟方,西行
 多くの歌人と交流があった。掲載の歌の意味は、「あの頃は、どういうつもりで、
 あの人の空約束を恨んだのかしら。この頃はもう恨むような気持もなくなって
 どうせ来ないと諦めてしまう夕暮もあるのだわ。」

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真葛