天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「恨み」(4/6)

  嵐吹く真葛が原になく鹿はうらみてのみや妻を恋ふらむ
                     新古今集・俊恵
*「嵐が吹く葛の原で鳴いている鹿は妻を恨んでばかりに 鳴いている
  のだろうか、恨む気持ちと裏腹に恋しく思っているのだろう。」
 「真」は美称、「恨みて」は葛の葉が風に裏返りやすい「裏見」を
 かけての縁語。

 

  疎(うと)くなる人をなにとて恨むらむ知られず知らぬ折もありしに
                     新古今集西行
*「遠ざかってゆく人を、なんだってこのように自分は恨んでいるのであろう。
  あの人に自分が知られなかった時、また、自分もあの人を知らなかった時
  もあったのに。」

 

  数ならぬ身は無きものになし果てつ誰が為にかは世をも恨みむ
                     新古今集・寂蓮
*寂蓮は、平安末期から鎌倉初期にかけての歌人、僧侶。30歳代で出家、
 歌道に精進した。歌の内容は、いかにも僧侶の思いである。

 

  数ならぬ身をなに故に恨みけむとてもかくてもすごしける世を
                     新古今集・行尊
  うきもなほ昔のゆゑと思はずばいかにこの世を恨み果てまし
                  新古今集・二条院讃岐
*「つらいことも前世からの因果と思わなければ、どうしてこの世の恨みがなく
  なりましょうか。」

 

  ただ頼めたとへば人のいつはりをかさねてこそはまたも恨みめ
                     新古今集慈円
*「ひたすらに相手を頼みにしていよ。ただ偽りが重なった時に恨めばよい。」

 

  つらきをも恨みぬわれに習ふなよ憂き身を知らぬ人もこそあれ
                    新古今集・小侍従
*「あなたの冷淡さを恨まない私が普通だと思わない方がよい。身の上をわきまえ
  ない人も、世の中にはいるのだから。」

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