天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「怒り」(1/6)

 「怒る」は、語源辞典によれば、「い(生・活)―いくーいかる」と発展した。「怒り」は、目標に到達するための行動が妨害されたときに生じる攻撃的な情動とされる。

 

  はね蘰(かづら)今する妹がうら若み笑(ゑ)みみいかりみ着(つ)けし紐解く
                  万葉集・作者未詳
*はね蘰: 年頃になった少女がつける髪飾り。鳥の羽あるいは菖蒲の葉を鬘に
 したものか。新婚初夜の儀式に、「はねかづら」をつけた娘が、初々しく顔を朱
 に染めながら馴れない下紐を苦労して解いている様子。「いかりみ」とは、この
 場合は、じれったく、いらいらする といった意味であろう。

 

  つよくひく綱手と見せよ最上川その稲舟のいかりをさめて
                    山家集西行
西行にゆかりの人物が崇徳院の勅勘を蒙った際、院に許しを請う歌。「最上川
 稲舟の碇を上げるごとく、「否」と仰せの院のお怒りをおおさめ下さいまして、
 稲舟を強く引く綱手をご覧下さい(私の切なるお願いをおきき届け下さい)。」

 

  いささかの怒の後のさびしかも怒ののちに物食ひをれば
                      植松寿樹
  みづからの意志にあらぬを爪のびて汚しと嘆き憤りゐぬ
                     前川佐美雄
*「みづからの意志にあらぬを」は、「嘆き憤りゐぬ」にかかるのだろうか。
 「爪のびて」にかかるのだろうか? いずれにせよ理解しにくい構文になっている。

 

  怒りつつしごとなしきぬ老いづきて怒らざる日となりて思へば
                      木俣 修
  ひらめけるかなしみ一つ黄昏はすみやかにして忿怒(ふんぬ)短し
                      坪野哲久
  神のごと彼等死にきとたはやすく言ふ人にむきて怒湧きくる
                      岡野弘彦

 

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黄昏 (webから)