感情を詠むー「怒り」(3/6)
庭石にはたと時計をなげうてる昔のわれの怒りいとしも
石川啄木
怒りつつ立つ人体はうがたれて見よかぎりなき泉が噴くも
岡井 隆
*暗喩によった表現。「かぎりなき泉」は、限りなき怒りであろう。怒っている
時の人体の状況がわかるようである。
怒をばしづめんとして地の果(はて)の白大陸暗緑海をしのびゐたりき
宮 柊二
*宮柊二は、中国山西省で足掛け5年兵士として過ごしたが、これはその折
の思い出だろう。何に怒っていたのか不明だが。
さらぼいてありとも恥を知るゆえに潔き怒りの列に入りゆく
山田あき
*「さらぼふ」は、ひどくやせること。
又はやく擬態を示す一群に怒を向ける心さへなし
小暮政次
石に刻め石に刻めと冬の日をわれは怒りの歌をうたへり
安田章生
緋(ひ)の悲鳴銀の怒りの立枯れてなぜか萌えざる一角がある
佐佐木幸綱
*なんとなくある時期の学生運動を想像させる。
激怒後のわたし泥々の牛となり泥となりくらき穴ぼことなる
佐佐木幸綱
*全体が暗喩。わたしが次々に、牛、泥、穴ぼこ に変化してゆくのだが、その
具体的心象を説明するのは、難しい。鑑賞に手古摺る。
[注]明日の掲載は、旅行のため、休みます。