感情を詠むー「憎む」(1/5)
「に(悪)―にくーにくむ」と発展した。「にくしむ」「にくしみ」「にくがる」などもある。(語源辞典による)
紫草(むらさき)のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも
万葉集・天武天皇
*天武天皇(大海人皇子)が、額田王に贈ったという。よく知られた歌。
「紫草のように美しいあなたを、もし憎いと思っているならば、人妻である
あなたのせいで、こんなに私が苦しんだりするでしょうか。」
春山の馬酔木の花の憎からぬ君にはしゑや寄さゆともよし
万葉集・作者未詳
*「しゑや」は、「ええい」とか「ままよ」という意味の感動詞。全体は、
「春山の馬酔木の花のように素敵なあなたとなら、ええいまあ、噂されても
いいのです。」
われこそは憎くもあらめわが宿の花橘を見には来(こ)じとや
万葉集・作者未詳
* 来じとや: 来たくないのでしょうか。
「私のことは憎いでしょうけれど、私の家の橘の花がきれいに咲きました。
その花は見に来たくないのですか」。
ある時はありのすさびに憎かりきなくてぞ人は恋しかりける
古今和歌六帖・読人しらず
*「生前は生きているというだけで憎かった。亡くなってしまってからいまさら
恋しく思われることだ。」
山高み花の色をも見るべきににくくたちぬる春がすみかな
拾遺集・藤原輔相
八重蓬さしはへてやは来りけむかどあくからににくくもあるかな
赤染衛門
にくむべき面わをおもひ浮べたり此の清き月にむかひて何ぞ
佐佐木信綱