感情を詠むー「驚く」(1/2)
「驚く」とは、心の平静を失う、びっくりすること。「お(怖)」を語根とし、「おーおづーおどるーおどろく」と発展(語源辞典)。
夢(いめ)の逢は苦しかりけり覚(おどろ)きてかき探れども手にも触れねば
万葉集・大伴家持
*家持が坂上大嬢に贈った恋歌十五首のうちの一首。「夢の逢」とは、夢のなかで
会うこと。
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
古今集・藤原敏行
*立秋の日に詠んだ歌。視覚と聴覚の対比という構図で、古今集の典型的な
理知的作風。
世中(よのなか)を夢と見る見るはかなくもなほおどろかぬわがこころ哉
山家集・西行
梅が香におどろかれつつ春の夜のやみこそ人はあくがらしけれ
千載集・和泉式部
*「梅の香に恋人の袖の香を思い出し、はっとさせられる。春の夜の闇こそ人の心を
虜にするものだ。」
驚かぬわが心こそ憂かりけれはかなき世をば夢と見ながら
千載集・登蓮
*先の西行の歌と同じ内容である。生きた時代も両者は重なっている。
きのふ見し人はいかにとおどろけどなほ長き夜の夢にぞありける
新古今集・慈円
*「昨日会ったばかりなのに、またどうして(急に亡くなったのか)と驚くのだが、
所詮人生は長い夜の夢でしかないのであった。」
夜な夜なは眼のみさめつつ思ひやる心や行きておどろかすらむ
後拾遺集・道命
*「毎晩毎晩目は覚めてばかりであなたのことを思っている私の心が飛んで行って、
あなたを目覚めさせているのでしょう。」