天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「驚く」(2/2)

  浅き水にすすき風さとはしるさへ驚きやすく鹿の子のゐる
                        前川佐美雄
  鉄片を打ちつづけゐて「ああ」といふ声あげしときわれは驚く
                         福田栄一
  海を観て太古の民のおどろきを我ふたたびす大空のもと
                        高村光太郎
*上句は観念的で共感しにくい。具体的な場合が様々ありうるからである。
 それは読者の鑑賞に預けるという作り方。

 

  許せ君
  かかるわれだに恋はるると知りし涙のーこのおどろきを
                         土岐善麿
*相手から「好きです!愛しています。」と言われた時の切なさ。

 

  古新聞!
  おやここにおれの歌の事を誉(ほ)めてあり、
  二三行なれど。                石川啄木
*友人らと共に『岩手日報』に短歌を発表していた時期があった。

 

  ほのぼのと愛もつ時に驚きて別れきつ何も絆(きづな)となるな
                        富小路禎子
富小路禎子は、敗戦で没落した旧華族の娘であった。旅館の女中などを経て
 日東化学工業に勤務、定年まで勤めた。生涯独身であった。愛の絆をもつことを
 自らに禁じていたようだ。

 

  目ざめゆく梅、はじめての純白の花咲かせたり驚きのごとく
                        佐佐木幸綱

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鹿の子