感情を詠むー「恥づ・恥」(2/2)
おお朝の光の束が貫ける水、どのように生きても恥
佐佐木幸綱
生きのびて恥ふやしゆく 日常は眼前のカツ丼のみだらさ美しさ
佐佐木幸綱
骨折した恋をうたえば恋歌がどこか子守唄に似る恥ずかしさ
佐佐木幸綱
*「骨折した恋」は、失恋とは違うように思える。骨折は治療によって元に戻る
場合が多い。よってその恋歌には、元に戻る期待、なぐさめが詠まれるだろう。
子守唄のように。
いまいえばまた自らを縛るべし恥多きわれをおとしめる声
武川忠一
*下句の「われをおとしめる声」は、他者の声であろう。それに対して反論すれば、
上句のような状況になる、という構文か。
ものいえば激しくるべし雪の原恥見え悔見え風狂ならず
武川忠一
*雪原に立って自分の言動を思い返しているようだ。
おのずからなるものなどはなし年々に重ねきたりてたとえば恥も
武川忠一
ことば持たば問ひ一つづつ拾ひ来むわが置きて来し恥も一つづつ
辰巳泰子
*我々は言葉を持っているがゆえに、過去の恥を問い直すのが実情。この歌は、
それを裏から表現したようだ。
ゆつくりとエレベーターのドアしまりひとつの恥とともに降(くだ)れり
伊勢方信