薬を詠む(5/6)
ものぐさくありふるわれによく煎じ呑めよとたびし山の薬草
木俣 修
*薬草: 薬用に用いる植物の総称。草本類だけでなく木本類も含むため、
学問的な場面では、より厳密な表現の「薬用植物」のほうが用いられることが多い。
手術室に消毒薬のにほひ強くわが上の悲惨はや紛れなし
中城ふみ子
*中城ふみ子は乳癌を病み、手術と再発に苦しんだ。
湿布薬にほはせて子が眠る夜 われははるけき雪野にすわる
小島ゆかり
*下句は、何しようもない作者の心情表現である。
夜半清冷の水薬(すいやく)を目にしたたらせ瞑(つむ)れば杳(とほ)き氷原がみゆ
富小路禎子
*水薬: 薬物を水に溶かした薬剤。一般には液状の飲みぐすりをさす。
蚊帳の外に吾児は来れり水薬の瓶(びん)を手にもち母を呼びつつ
原阿佐緒
*恋愛問題の多い原阿佐緒には、異なる男性との間にふたりの男の子があったが、
この歌の吾児がどちらを指すか不明。
膏薬を炙(あぶ)っているとかかる夜にかぎって山は山火事である
山崎方代
*膏薬: 皮膚外用剤の一種で、皮膚または粘膜に塗ったり貼り付けたりして、
その保護、防腐、殺菌、緩和、痂皮(かさぶた)軟化をはじめ、薬物の吸収や
肉芽の発生を期待するものをいう。
くすり湯の鼻曲るまでくさき湯に永くし浸るもたのもしくして
植松寿樹
くだちゆく夜しみじみと母上があかぎれに塗る薬は匂ふ
松倉米吉
*くだちゆく: 時間がすぎる、衰えゆく、末になる、という意味。ここでは、
更けてゆく夜。