薬を詠む(6/6)
いかなる生も敗北ならば、薬包紙たたいて寄せる白色の粉
加藤治郎
*これも鑑賞に困る作品。下句は別の事象に置き換えることができる。
二読、三読して戸惑うばかり。
薬の包み抱きて帰る坂の上にひかりは淡き夕月を恋う
近藤芳美
*坂の上に明かりの点いた自分の家があるのだろう。
ひたすらに薬匙磨けりほのぼのと楕圓をなせる魂(たま)生るるまで
石橋妙子
*薬匙: 「やくさじ」と読む。粉末状の薬品を容器から移し替えたり、盛り
分けたりするための匙。作者は、神戸女子薬学専門学校(現神戸薬科大学)
出身である。薬匙の形に魂を見ている。
いまわれのあつかひゐるは百人の致死量をらくにこえむ薬液
外塚 喬
遠雷の轟きやまぬ雨夜にて薬剤捏ねるてのひら熱し
中埜由季子
薬呑を透し逆さまに机上見ゆ虚構のごときその整ひよ
滝沢 亘
*薬呑: 「くすりのみ」と読むのだろう。病人が寝たままの状態で薬や水を
飲みやすいように工夫された容器。一般的には吸いのみと言われている。
壜の蓋固く締まるを開けむとし病もつ身は力を吝(お)しむ
橋本喜典