五感の歌―嗅覚(5/5)
雨のくるまえのひととき愁わしも動物園ににおいみちつつ
村木道彦
眠りゐる褐色の犬とたんぽぽと土に低きもの自がにほひもつ
真鍋美恵子
美しく名を呼ばれたはつなつの魚の匂いのする坂道で
藤本喜久恵
*初句二句と四句の対比が効いている。
議事堂より出できてわれを遮りし集塵車激しき腐臭を放つ
和田周三
*議員たちが集まって政策を議論する場である議事堂から腐臭を放つ集塵車が
出て来た、という。なんとも比喩的な内容ではある。
悔恨と怠惰退屈たそがれて人間のにほひ薄れゆきたり
工藤まりゑ
*人間の匂いとは、悔恨、怠惰、退屈からでてくるようだ。それらが消えてゆく時、
人間の匂いも薄れる、という。さもありなん。
隣町まで雷鳴が近づいて、鉛筆が濃く匂つたやうな
目黒哲郎
*下句は別の匂いをもってくることができるが、作者の経歴や日常に関わっている
ようので共感できれば鑑賞も可能。個人的には雷鳴と鉄の匂いとが結び付きやすい。
かすかなるわが体臭を匂わせて竹林のなか過ぎしうつし身
岡部桂一郎
*自分の体臭を意識するほど清々しい竹林だったのだろう。