天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

五感の歌―触覚

 体の皮膚の一部で触れた時に感じる感覚が触覚だが、「触れる」「触る」という動詞を直に使った作品は和歌にも短歌にも少ない。

  しんしんと雪ふりし夜にその指をあな冷めたよと言ひて寄りしか
                      斎藤茂吉
  棘だつものいくつもつけて帰り来しわが外出着(そとでぎ)に吾子よさはるな
                     五島美代子
*上句は暗喩でもある。外出先でついたとげとげしい感情もある。

 

  原なかを横ぎるときに踏む土の感触は幼な日に似てかなしけれ
                     上田三四二
  象の鼻はざらりと温しなくならぬ淋しさ撫づる手触りに似て
                      永守恭子
*なんとも独特な直喩だ。この作者には、歌集『象の鼻』(水甕叢書)がある。
 読んだことはないが、読めばこの歌の感覚が分かるかも。

 

  なにやらむ指先に触るる冷たさにゴジラの卵夢に見てゐし
                      伊藤俊郎

  われは樹に樹は青空に触れてをり世の物音の絶えしひととき
                      長野燁子

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象の鼻