天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

荒天を詠むー嵐(2/6)

  あらし吹くみむろの山のもみぢ葉はたつ田の川の錦なりけり
                   後拾遺集・能因
竜田川は、大和川水系の支流で奈良県を流れる一級河川。古来紅葉の名所
 として名高い。竜田揚げは、この川辺の紅葉の色に似ていることから
 きた名前との説あり。

 

  あふさかや木ずゑの花を吹くからに嵐ぞかすむせきのすぎ村
                  新古今集宮内卿
  みよし野のたかねの桜ちりにけりあらしも白き春のあけぼの
                 新古今集後鳥羽院
*前の宮内卿の歌と同様な豪華絢爛な情景表現である。嵐自体が散る花で白くなる、
 という独自な観点である。

 

  月かげのすみわたるかな天の原くも吹きはらふ夜半のあらしに
                  新古今集源経信
  とふ人もあらし吹きそふ秋は来て木の葉に埋む宿のみちしば
                新古今集藤原俊成女
*「あらし」を「あらじ」の掛詞として用いた例。つまり「とふ人もあらじ」と
 「嵐吹きそふ秋」を掛けている。
 吹きそふ: 「添ふ」は程度の増すことを表すので、「あらし吹きそふ」は、
 嵐がよりひどくなる、を意味する。

 

  笹の葉はみやまもさやにうちそよぎ氷れる霜をふく嵐かな
                 新古今集・藤原良経
  世のなかにあきはてぬれば都にもいまはあらしの音のみぞする
                 新古今集藤原顕長
*あき:「秋」と「飽き」の掛詞。
 あらし: 「嵐」と「あらじ」との掛詞。
 「世間も秋の終りとなりましたので、ここ都でも今は嵐の音ばかりして
  本当に寂しいことです。それに私は世の中にすっかり興味をなくし
  ましたので、都から出ようとそればかり考えています。」(『新日本古典文学大系  11』)

 

  ももとせの秋の嵐は過ぐしきぬいづれの暮の露ときえなむ
                   新古今集・安法

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竜田川 (webから)