天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

荒天を詠むー嵐(3/6)

  名もしるし峰のあらしも雪とふる山ざくら戸をあけぼのの空
                 新勅撰集・藤原頼実
*山ざくら戸: ヤマザクラの咲いている所。桜の多く植えてある山家。
 下の「あけぼのの空」と「戸を開ける」と掛けている。

 

  あしびきの山のあらしに雲消えてひとり空ゆく秋の夜の月
                 新勅撰集・藤原教実
  さらしなや姥捨山のたかねよりあらしをわけて出づる月かげ
                 新勅撰集・藤原家隆
姥捨山は、長野県の北部にある標高1252mの山で、姥捨伝説の地。

 

  み山木ののこりはてたる梢よりなほしぐるるはあらしなりけり
                   新勅撰集・慈円
  花さそふあらしの庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり
                 新勅撰集・藤原公経
*ふりゆくものは: 「ふりゆく」は桜の花びらが「降りゆく」ことと、作者自身が
 「古りゆく(老いてゆく)」との掛詞。
 「桜の花を誘って吹き散らす嵐の日の庭は、桜の花びらがまるで雪のように
  降っているが、実は老いさらばえて古りゆくのは、私自身なのだなあ。」

 

  なほさゆるあらしは雪を吹きまぜて夕ぐれさむき春雨の空
                  玉葉集・永福門院
  さ夜深き軒端の峯に月は入りて暗き桧原(ひばら)に嵐をぞ聞く
                  玉葉集・永福門院
*永福門院: 鎌倉後期の女流歌人伏見天皇中宮玉葉集・風雅集の代表歌人

 

  乱れつる落葉は庭にしづまりて弱るあらしを梢にぞ聞く
                新後拾遺集二条良基
二条良基: 南北朝時代の公卿、歌人連歌作者。

 

  たかさごのをのへのあらし吹くほどはふれどつもらぬ松のしら雪
                 続千載集・二条為世
*二条為世: 鎌倉末期の歌人・公卿。藤原定家の曽孫。『続千載集』を撰進し、
 歌壇の長老として重んじられた。

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姥捨山