天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

窓を詠む(5/5)

  学ぶというはかくきらきらとどの窓も燈(とも)る校舎に鐘鳴りいでて
                        武川忠一
  灯の消えし校舎の黒き窓並ぶついに言いきれざりき彼らもわれも
                        武川忠一
*この歌は、前の歌と対照的である。作者は、1944年学徒出陣、1947年上京、
 早稲田高等学院教諭などを経て、早稲田大学社会科学部教授となった。
 こうした経歴のどの時点でそれぞれの歌が詠まれたかは、調べていない
 ので不明。

 

  ただ坐る他なき窓辺ひと等みな去りつ晩夏の光の中を
                        光栄尭夫
  この窓になほ一年は勤むべし今宵は清き春の夕べの月
                        小暮政次
  うつむけば押しひしがれてしまふから硝子戸を押すわれの額は
                       池田はるみ
*比喩の歌。硝子戸は何の暗喩だろうか。親の心とか。黙って聞いている
 と押し切られてしまうから、必死に自分の思いをぶつける場面を詠んだ
 とも解釈できる。

 

  まりあまりあ明日あめがふるどんなあめでも 窓に額をあてていようよ
                        加藤治郎
*作者と恋人「まりあ」は、別々の場所にいるようだ。明日はどんな雨が
 降ろうと互いに窓に額を当てて相手のことを思うことにしようよ、という。
 悲しいような相聞歌である。

 

  窓の外(と)の手すりの鉄におとたてつあけがたちかき霧こまやかに
                       山田富士郎

 

f:id:amanokakeru:20190919000509j:plain

校舎の窓