天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

かりそめ(1/3)

 「かりそめ」とは、一時的、その場限りであることを意味する。
今年の「短歌人」九月号の評論
 かりそめの世を生きるー永井陽子作品の魅力   加藤隆枝
を読んで、あらためて永井陽子さんの生き方に興味をもった。彼女も私も「短歌人」の会員であったが、永井さんとは面識はなかった。ただ、彼女の歌集『てまり唄』を購入した際に、お礼状をもらった記憶がある。
 評論において加藤隆枝さんは、永井陽子の生き方、考え方と短歌作品との関係を、親子兄弟関係を軸に考察しておられて新鮮に感じられた。
 永井陽子は自身で、かりそめの世を生きている、と思っていたようだ。この観点から詠まれたと思われる次のような短歌に、特に強く惹かれた。評論中から五首あげる。
  終の日まで人には告げぬこころもて照りわたるなり秋の鋼(はがね)は
  自己といふとはに一個の存在をはがねとなしてみづからを鎖す
  遊楽にとほく月日は経たりもみぢする空にひとすぢの白髪を見き
  嫁すもあり逝きしもあれど末の子はついに末の子なつめがひかる
  かりそめにこの世にありて何とせう 立つたまま夢を見てゐる箒

 参考までに永井陽子の履歴を、以下に要約しておく。
 *1951年、愛知県瀬戸市城屋敷町に生まれる。時に父五十歳、母四十歳。
      十一歳年上の姉がいた。
 *1967年、愛知県立瀬戸高等学校入学。古典に惹かれ、短歌を作り始める。
 *1969年、短歌結社「短歌人」へ入会。
 *1970年、愛知県立女子短期大学(現・愛知県立大学)国文科入学。
 *1974年、愛知県立芸術大学音楽学部勤務。
 *1975年、東洋大学国文学科に編入学し司書資格取得。
 *1981年、愛知県立図書館勤務。
 *1989年、2年間愛知県立女子短期大学非常勤講師。
 *1994年、愛知芸術文化センター勤務。
 *1995年、愛知文教女子短期大学助教授。
 *1999年、2月から40日間肝炎により入院し、10月から休職。
 *2000年、1月26日に死去。享年48(自殺か?!)

短歌作品の多彩な受賞歴は省略したが、勤務先も多く替わっている。評論では、永井陽子の家族内の立場に、かりそめの世と感じさせる要因があった、と解説している。

 余談だが、この宇宙は現代物理学によると、138億年前に誕生し、劇的変化を遂げている。つまり我々の棲む宇宙自体がかりそめの世界。人生の途上で「かりそめ」を認識してその次に自分の行動を決定するとしたら、どんな選択肢があるのだろう。行き詰まるか開き直るか。
永井陽子の歌を再録しておこう。箒は作者を指す暗喩である。

  かりそめにこの世にありて何とせう 立つたまま夢を見てゐる箒

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永井陽子歌集『てまり唄』(砂子屋書房