天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー葡萄(1/3)

  幼きは幼きどちらのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ
                    佐佐木信綱
  沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
                     斎藤茂吉
  むらさきの葡萄のたねはとほき世のアナクレオンの咽を塞ぎき
                     斎藤茂吉
アナクレオン: 古代ギリシャ[前570ころ~前480ころ]の叙情詩人。
 恋と酒を歌った快楽派詩人として名高い。後世に「アナクレオン風」という
 詩風を残した(デジタル大辞泉)。アナクレオンは食べていた葡萄が咽を塞いで
 死んだと言われている(斎藤茂吉の自解)。

 

  黒葡萄われは食ひつつ年ふりしグレシヤの野をおもふことなし
                     斎藤茂吉
  をとめ等がくちびるをもてつつましく押しつつ食はむ葡萄ぞこれは
                     斎藤茂吉
  まをとめの乳房のごとしといはれたる葡萄を積みぬわがまぢかくに
                     斎藤茂吉
  蔭(かげ)膳(ぜん)に添ふる葡萄のみづみづしく夜の灯に光るもまがなしくして
                     木俣 修
*蔭膳: 旅行などで不在の人のために、家族が無事を祈って供える食膳。
 本人がいないにもかかわらずあえて一人前ととのえて無事を祈る習俗。

 

  父よその背後はるかにあらわれてはげしく葡萄を踏む父祖の群れ
                     岡井 隆

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葡萄