天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー葡萄(2/3)

  種子あらぬ信濃の葡萄皮うすく味よき葡萄老の口たのし
                     窪田空穂
*種なし葡萄の作り方: その多くは最初から種がないのではなく、栽培の
 過程で「ジベレリン」などの植物ホルモンを使用することで種なしにしている。

 

  うすらなる空気の中に実りゐる葡萄の重さはかりがたしも
                     葛原妙子
  口中に一粒の葡萄を潰したりすなはちわが目ふと暗きかも
                     葛原妙子
  紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく
                     安永蕗子
  ひと粒の葡萄をはめばはしけやしこの惑星の胸乳したたる
                     安永蕗子
*はしけやし: 形容詞「は(愛)し」の連体形+間投助詞「やし」の連語。
 意味は、いとおしい。なつかしい。

 

  日本になほたのしみて葡萄吸ふ老婆ら、赤き舌ひらめかせ
                     塚本邦雄
  夫婦と犬つめたき葡萄かこみをり あやふくボルジア家に連なりつ
                     塚本邦雄
*ボルジア家: スペイン・アラゴン王国のボルハ(現アラゴン州サラゴサ
 県の町)に由来する家名を持ち、バレンシアを発祥とする、15・16世紀に
 イタリアで繁栄した貴族の家系である。が、アレクサンデル6世は世俗化した
 教皇で、その振舞いから、ボルジアの名前は好色さ、強欲さ、残忍さ、冷酷さ
 などを代表するものとなった。

 

  窖(あなぐら)の葡萄は酒となりてゆくみごもるほどの夢醗酵(わか)せつつ
                     原田兎雄

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葡萄