天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー葡萄(3/3)

  一房の青き葡萄に色身(しきしん)のあかるむ秋と歩みを返す
                    山中智恵子
*助詞「に」「と」の使い方が分かりにくい。色身とは肉体・からだのことだが、
 葡萄との関係が不明。見ただけなのか、手に取ったのか。体があかるむ秋だなあ
 と感じて引き返したというのか。

  葡萄は皿にその深き海の酒のいろ記号の論理ここに静かなり
                    山中智恵子
*上句のことを下句で解釈している作りになっている。

 

  漢の武帝西方の葡萄つくづくと見て未知の香をおそれ給へり
                    馬場あき子
  童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり
                     春日井建
  とびやすき葡萄の汁で汚すなかれ虐げられし少年の詩を
                     寺山修司
  ぶだう呑むくちひらくときこの家の過去世(くわこせ)のひとらわれをみつむる
                     高野公彦
  くぐもりて蒼き葡萄のつぶら実はつよくふふみてつづけさまに食ふ
                    川島喜代詩
  乳形の葡萄は市にうづたかし耶律楚材の歌に見しごと
                     雁部貞夫
*耶律楚材: 楚材は天文、地理、数学、医学、儒教、仏教、道教に通じていた。
 1215年モンゴル軍が北京を占領したときチンギス・ハンに降ってその政治顧問
 となり、西域遠征に従った。詩人、文人としても優れていた。

     八ヶ岳むらさき頒けし葡萄かな  久米三汀
     佳き一語さづかる葡萄棚の下   向田貴子
     鈍行も時に疾駆す葡萄郷     北野民夫

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葡萄