現代短歌の表現(3/5)―破調
破調の作品。歌集『ポストの影』では、字余りが多いが、短歌の韻律を大きく壊す目立った破調はない。外国語(カタカナ語)の入った作品に破調が出やすい。
以下、赤字の部分に破調を示す。
朝の儀式のベッドの上の体操にティンカーベルがふいに乗りたる
浴槽にデフォルメされたる痩身のパーツしづけし薄明のなか
たのめなき留守居のひと日頭陀袋にほのあかりすることばをしまふ
雲のかげゆるらに過りゆく庭に虎耳草(ゆきのした)の浅き根を抜きてをり
はるの空みあげてしばしかんがへる人間(ひと)の一生(ひとよ)の晴天の日数
追焚きランプ点る湯舟に聞いてゐるグレゴリオ聖歌のやうな雨音
ぬばたまの夜の銀行の三階の塾に吸はれゆく小学生ふたり
店に飾る祝祭の仮面の金色が夕日に輝りぬリアルト橋の辺
鍔広き麻の帽子とカンパニュラ買ひて風ひかる坂道帰る
ヘアドライヤーかければつねにわれを呼ぶ声がきこゆる誰のこゑならむ
ぽつんぽつん灯の点る廓しんとして過去世のやうに靴音ひびく
真つ暗がなくなつてしまつたと思ひしにむかしのまつくらのあしおとがする
虹の下に明るく町の広がりて「じや、また」とたれか挨拶してゐむ
はなびらが帯なし流るる街川を親子が見てをりバギーカーとめて
青色のゼムクリップ古き椅子のうへこの世の大事の外の春昼
日に照りて赤きカナメモチつやつやし妙に勘違ひしてゐるやうな
みなとみらいに日本丸が帆を張りぬはるかとほくより来しもののごとく