天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたーレモン(2/2)

  四つ割りにしたるレモンの切り口のみづみづと黄の半月をなす
                     大西民子
  下宿までいだく袋の底にして發火點いま過ぎたり檸檬(レモン)
                     江畑 實
*下句が、特に発火点が何を意味するのか不明。辞書によれば発火点とは、物質が
 空気中で自然に燃え始める最低温度。(比喩的に)争いや事件の起こるきっかけ。
 とあるが。これからすると、一首全体が比喩になっているのだろう。

 

  夕空の美しきレモンよさまざまに人老ゆるとも永遠(とは)の紡錘形
                     松川洋子
  言訳を聞かず背を見せゐし妻がしぼりしあとのレモン吸ひゐる
                     大平修身
*「レモン吸ひゐる」の主語は、妻なのか作者なのか曖昧。作者である方が夫婦関係
 の妙がでて良いと思うが。

 

  みづからにもの言はむとし口中の薄切りレモン穴あきにけり
                      篠 弘
*「みづからにもの言はむ」とは、独り言でも言おうとしたのだろうか。

 

  百年のレモンは爪を立てられて嬉々とおのれの香りを放つ
                    中野れい子
*「百年のレモン」が何を指すのか? もしかして『東京百年物語-キリンレモン
 サンドクッキー』のことか。「国産バターを使った、サクッと軽く、ホロッと
 やわらかな食感のクッキーでレモン味のホワイトチョコレートをサンドしました。」
 との宣伝文句がある。

 

  未だ何も成し得てをらず限りなく檸檬を輪切りにしてゐるほかは
                     酒向明美

 

     嵐めく夜なり檸檬の黄が累々     楠本憲吉
     いつまでも眺めてゐたりレモンの尻  山口青邨
     鋭角に舌を削つてゆく檸檬      櫂未知子

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レモン