天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

はかなし(3/6)

  さきの世の契りをしらではかなくも人をつらしと思ひけるかな
                     金葉集・前中宮上総
  はかなくて過ぎにしかたを数ふれば花にもの思ふ春ぞへにける
                    新古今集式子内親王
式子内親王は1153年頃京都に生まれ、1201年に京都で亡くなった。およそ
 48年の生涯であった。前斎院としてまた出家して独身で過ごした。
 そのはかなく過ぎた過去を振り返ると、自分にも花を見て物思いにふける
 青春があったのだ、という感懐。

 

  はかなしやさても幾夜かゆくみづに数かき侘ぶるをしの独寝
                     新古今集・藤原雅経
*をしの独寝(ひとりね):  鴛鴦(おしどり)の一羽が眠っている様。冬の季語。
 水中では時折水掻きを動かしている。

 

  中空に立ちゐる雲のあともなく身のはかなくもなりぬべきかな
                    新古今集・読人しらず
*「中空にわき立つ壮大な雲が跡形もなく消えてしまうように、我が身が頼りなく
  空しくなってしまった。」夫婦別れした後に、女が詠んだ歌。

 

  はかなさをほかにもいはじさくら花咲きては散りぬあはれ世の中
                     新古今集・藤原実定
*「はかなさというものを、桜の花のほかには、何にも喩えて言うまい。咲いては
  散ってしまう、ああ、人の世というもの。」

 

  暮れぬ間の身をば思はで人の世のあはれを知るぞかつははかなき
                      新古今集紫式部
*「わが身もその日一日が暮れるまでの間の短い命だとも思わずに、一方で人の
  命のはかなさを知ることは、悲しいことです。」

 

  世の中は見しも聞きしもはかなくてむなしき空の煙なりけり
                     新古今集・藤原清輔

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