天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

はかなし(4/6)

  萩の花暮々(くれぐれ)までもありつるが月出(いで)てみるになきがはかなき
                      金槐集・源 実朝
*「萩の花の、日の暮れるついさっきまであったのが、出た月の下に見てみると
  なくなっている。儚さというものよ。」小林秀雄が好んだ一首。

 

  さむしろに露のはかなくおきていなば暁ごとに消えやわたらむ
                     新勅撰集・源 実朝
  なほざりの袖のわかれの一言をはかなく頼むけふの暮かな
                     新勅撰集・藤原実氏
  庭たづみ行方しらぬものおもひにはかなき泡の消えぬべきかな
                     新勅撰集・本院侍従
  はかなくもあすの命を頼むかなきのふを過ぎし心ならひに
                     新勅撰集・藤原家隆
  はかなしやたきぎつきなん夕をば思はでけふもかへる山びと
                            宗祇
  手すさびの儚きものを持ち出でてうるまの市にたつぞわびしき
                         大田垣蓮月
大田垣蓮月は、幕末・明治の歌人。夫と死別後、神光院月心の門に入り尼となる。
 父没後、知恩院山内の庵を出て洛外・岡崎に移り住むが、四十を過ぎて新しく
 生業の道を求めねばならなかった。口過ぎの術となったのが、自作の歌を刻み
 つけた陶器(「蓮月焼」と呼ばれるようになった)を 街角に立って売ること
 であった。享年85。

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たきぎ