天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

はかなし(6/6)

  没年を明らめんとして幾冊を閲(けみ)しゆきつつしきり果敢(はか)なし
                          木俣 修
*誰かの亡くなった年月を明らかにしようと、幾冊もの参考書を調べている場面。

 

  ひた寒くせせらぐ水のほとりにてはかなく燃ゆる草紅葉あり
                          木俣 修
  病める子が小さき花火遊ぶさまはかなくきよし夕光(ゆうかげ)の庭
                          前田 透
  われに見えぬもの見つつある夏天(なつぞら)の凧(いかのぼり)、ふたすぢの
  はかなき尾                   塚本邦雄
*「見つつある」のは、作者以外の人か? その人には、凧とそれに付いている
 二本の尾が見えていて、作者に話しかけている情景のように思えるのだが。
 あるいは夏空を見ての作者の空想か。

 

  ゆきすぎてなににはかなし人をらぬ自動車が楽をかけてとまれる
                         上田三四二
*行き過ぎて気づいたが、自動車から音楽が流れてくる。人が誰も乗っていない。
 たしかにはかないことである。

 

  行き交へる男女が一瞬かさなれるはかなき情死をうつす硝子戸
                          春日井建
*硝子戸に映ったからであろうが、なんとも想像がたくましい。

f:id:amanokakeru:20191024000314j:plain

草紅葉