はかなし(6/6)
没年を明らめんとして幾冊を閲(けみ)しゆきつつしきり果敢(はか)なし
木俣 修
*誰かの亡くなった年月を明らかにしようと、幾冊もの参考書を調べている場面。
ひた寒くせせらぐ水のほとりにてはかなく燃ゆる草紅葉あり
木俣 修
病める子が小さき花火遊ぶさまはかなくきよし夕光(ゆうかげ)の庭
前田 透
われに見えぬもの見つつある夏天(なつぞら)の凧(いかのぼり)、ふたすぢの
はかなき尾 塚本邦雄
*「見つつある」のは、作者以外の人か? その人には、凧とそれに付いている
二本の尾が見えていて、作者に話しかけている情景のように思えるのだが。
あるいは夏空を見ての作者の空想か。
ゆきすぎてなににはかなし人をらぬ自動車が楽をかけてとまれる
上田三四二
*行き過ぎて気づいたが、自動車から音楽が流れてくる。人が誰も乗っていない。
たしかにはかないことである。
行き交へる男女が一瞬かさなれるはかなき情死をうつす硝子戸
春日井建
*硝子戸に映ったからであろうが、なんとも想像がたくましい。