天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光歌集『梨の花』(4/11)

■助詞・助動詞・副詞の使い方
 品詞の選び方、使い方で短歌の醸し出す情緒が決まってくるが、小池さんの場合は副詞の用法に特色が出る。これは多分に斎藤茂吉から学んだ点であるように思う。後で触れるが、ユーモアの雰囲気を感じさせるところに力を発揮する。
 以下に、助詞(を、に)、副助詞(つつ、のみ)、副詞(すなはち)の例歌をいくつかあげる。

  畑中にいつぽんきりの梅の木あり二月二十日を花つけてゐる
  そのむかし武田泰淳にわが読みし房江といふ名の女おもひ出づ
  利根川を小舟(こぶね)にわたりゆきたりし義経主従がまなかひに見ゆ
  をさなき日おもへばこひし臍の胡麻取つたら死ぬとおしへられつつ
  絨毯のうへに落ちたる鉛筆は音もたてずに落ちたりしのみ
  天理教分教会の庭しづかにてハクモクレンの花満開とのみ
  おもひ出づるまでに遠くに母ありて週にいちどをわが訪へるのみ
  畑(はた)隅(すみ)に黒御影石の墓石あり夏のひかりはすなはち照らす
  わが希(ねが)ひすなはち言へば小津安の映画のやうな歌つくりたし
  蹄鉄師といふ職種あり馬の足とみればすなはち蹄鉄を打つ

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蹄鉄