小池光歌集『梨の花』(9/11)
■あはれ(感嘆詞、形容動詞、名詞)
小池さんは、仙台文学館「小池光短歌講座」(二00七年度 第一集)において、
「あはれ」を使うのは度胸がいる。今までまったくないものに
「あはれ」をつけないと、「あはれ」の甲斐がない。
と語っている。
この歌集には、「あはれ」を入れた歌は11首(全体の2%)ある。以下にすべてあげる。
あけがたの小(ち)さき地震に目覚めたりふたたびねむることのあはれさ
三十一年わが勤めたる学校が電車の窓をよぎるあはれさ
久しぶりに黒靴履けばあはれあはれかかとはいたく擦りへりてをり
呉清源のいまはのまなこに映りたる白い石あはれ黒い石あはれ
死のきはの猫が噛みたる指の傷四十日経てあはれなほりぬ
すぎこしをおもへばあはれむすめ二人の婚礼があり妻の死があり
わが半生かへり見すれば自転車泥棒いちどもせずに来たりしあはれ
雨ふるなかまよひてきたるしじみ蝶あはれとまれり紅萩のはなに
そのむかし五能線にてわがみたる風合瀬(かそせ)の海のしらなみあはれ
ヘアピンまで取り上げられし朴槿恵(パククネ)をごく平凡にあはれみおもふ
生活はここにもありて交番の裏口に立つガスボンベあはれ
これまでの十歌集について、「あはれ」の歌の割合を調べてみると次のようになっている。
『バルサの翼』(1.4%)、『廃駅』(2.6%)、『日々の思い出』(2.0%)、
『草の庭』(2.5%)、『静物』(1.2%)、『滴滴集』(1.4%)、
『時のめぐりに』(0.7%)、『山鳩集』(1.1%)、『思川の岸辺』(1.3%)、
『梨の花』(2.0%)。